今、上司や先輩から叱られる事に傷ついている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし今は、上司や先輩の方でも、今は、パワハラと言われるのを恐れ、若い人を叱るのをためらう方もいらっしゃるのです。
もちろん、中には、「人を叱る事が出来る偉い自分」に酔っている人もいるのも、事実です。
「これは、君のために言うんだよ」「叱られるうちが花だよ」
これが、上司や先輩が、立場の弱い人に苛立ちをぶつけたい時に使う言い訳なのか、本当に若い人に理解して貰いたくて使っている言葉なのか。
その見極めが出来るのは、自分が人を叱るべき年齢や立場になった時だったりするのです。
経験の少ない自分に向けた教育だと理解した時、その叱った先輩や上司は、既に退職している。あるいは、叱られた自分が、自信を失い退職している。
残念ですが、よくある話です。千代子も、そのひとりだったのです。
新卒で入社した会社での出来事です。近くの席に座っていらした先輩が、他の同期や後輩とともに、千代子も昼ごはんに誘って下さいました。
会社の近くの中華料理店です。メニューを見て、千代子は写真にある蟹のお粥が美味しそうに見えて、それを食べたいと言いました。
他の人はメニューを見て、シュウマイ定食を注文する人が多かったのです。
料理が運ばれて来ました。
少し大きめのどんぶりに入っているお粥は、熱々で、トロトロです。食べるのに時間がかかります。
他のシュウマイ定食を選んだ方が、早く食事を終えてしまいそうになりました。
その時、その先輩はテーブルを見回して言われました。
「お前ら、千代子さんに合わせてゆっくり食え」と。
本来、逆です。
千代子が、周りの人に合わせて、蟹のお粥という時間のかかるものを注文するべきではなかったのです。
先輩は、千代子に恥をかかせない様に、そういう言い方をされたのです。
「こんな人になりたい」
千代子は、心からそう思いました。それ以来、千代子は、友人以外の人と食事をする時には、食事をする相手と同じものを頼む様にしました。
その会社も退職、そして転職し何年か経ちました。千代子は、いつの間にか、外食する時に、メニューを決めるのも、食事をするのも、早くなっていました。
年末年始に、親の家に帰った時です。両親、弟の家族、千代子と皆で、おせちを頂いていました。その時父が、言いました。
「周りに合わせて、もっとゆっくり食べなさい」
先輩も父も、言いたい事は同じなのです。人とペースを合わせる。千代子にそんな人間になって欲しいと願っていたのです。今まで、千代子は会社員としての働き方しか、卒業以来、した事がありまん。ひとりで完結する仕事など、皆無です。
その中で生きて行く。その中の一員として認めて貰う。食事のペースは、その一端なのではないかと思うのです。
配属先の先輩、親。千代子が選べない人間関係です。千代子は時々、考え込みます。社会で生きて行くためのルールを、きちんと教えようとした人に恵まれた自分は、運が良かったと。
経験が少ないため、未熟な事である事を指摘される。辛い経験です。千代子にもそんな時がありました。
それでも、どこで働いても、その仕事を求める人、その仕事ぶりを評価する人。常に、人と共に働きます。至らない点は、批判されます。その批判にひるまずに、次の仕事で取り返すつもりで、明日も生きて下さい。