ドアーズ ハートに火をつけて 1967年発表
クネオ君は、ドアーズが昔から好きでした。
クネオ君と知り合ったのは、千代子が18歳の時でした。
大学生の時、夏休みにアルバイトをした、アルバイト先で知り合いました。
ファミリーレストランで、千代子は、ウェイトレス、クネオ君は、キッチンで働いていました。
同僚のウェイトレスも、千代子と年齢の近い学生が多かったです。仕事は、大変でしたが、人間関係は、悩まずに働けました。
早番であがったクネオ君が、昼から夕方まで働く千代子を駐車場で待ち、車で家まで送ってくれた事もありました。
車の中の会話で、クネオ君もロックが好きとわかり、ふたりで、あれがいい、これはダメ、なんて話をしていました。
やがて、千代子は就活、卒論、就職と生活が変わり、クネオ君と疎遠になってしまいました。
そして、千代子の就職してからの生活が始まりました。
どんな時代に生まれても、働く生活は理想通りにはいきません。当時、セクハラ、パワハラ、ワークライフバランス、等という考え方も言葉も、ありませんでした。
千代子の入社した時、同期は男女合わせて30名くらいでした。千代子が58歳で退職した時、同期は千代子の他は、2人しかいませんでした。
千代子は、独身、会社員として20代後半を迎えました。
本当にこのままの生活をしていいのか。迷いながらも、職場に相談する人もいない千代子は、孤独でした。
新聞で、ドアーズの伝記映画が上演される事を知り、銀座に見にいきました。
この「ハートに火をつけて」が上演中に流れて来ました。その時、千代子は、クネオ君と、ウェイトレスの仕事を終えた後、横浜までドライブをした時の記憶が蘇りました。車の中で、この曲をかけていたのです。
もう、映画の内容より当時の記憶に気をとられた状態で映画を観ていました。
今の様に、SNSのない時代、疎遠となったクネオ君と連絡をとる手段がありませんでした。
この曲を聴くと、学生の頃の楽しかった思い出、就職してからしばらくの大変だった思い出、両方の記憶が溢れ出てきます。
クネオ君に、「学生の時、バイト先で仕事が終わるまで、待っていてくれた事を書いてもいい?」と尋ねました。クネオ君は、「気持ち悪くて嫌でした、とか書くんでしょ」と言って、ヘラヘラと笑っていました。
クネオ君の寛大さ、楽観的なところに、千代子は大分、助けられています。