寂しい時、悲しい時、かつて母の焼いてくれたマドレーヌの香りを思いだします。
砂糖、玉子、バニラエッセンスを加えたお菓子です。
二口コンロの上に、小さな赤いオーブンを置いていました。
焼き上がる時間に、オーブンの取っ手を開けると、オーブンの中から、温かい、甘い、香ばしい香りが、洩れてきました。
弟と私は、歓声をあげたものです。
自分が料理を人に作る立場になりました。
あの弟と私があげた歓声は、マドレーヌを焼いた母にとっても、ご褒美だったと思います。
あの香りの懐かしさが、私の幸せでした。