千代子の今、勤務している場所は、帰宅の通路にデパートがあります。
たいていのデパートは、1階が化粧品売り場です。
デパコス、確かにドラックストアで売られているものより高価です。
しかし、若い女性が、友人らしき人とデパートで化粧品を試しているところを見ていると、何か自分までウキウキした気持ちが伝わってくる気がします。
新しいものを試したい、もっと綺麗になりたいという女性の活気が、デパートに戻ってきたのを眺めている時、千代子は、「よかったねえ」と、寛大なおばさまモードになってしまいます。
千代子も今は、もう充分持っているからいいかと、最近、新しいオードトワレを買う事がなくなりました。
しかし、若い頃、デパートで新たなオードトワレを買った時、帰り道で既に気持ちが高揚していたのです。
気持ちが高揚するものが、新型のアイフォンの人もいるかもしれません。あるいは、リーバイスのジーンズの人もいるかもしれません。
ひとつあるからいいじゃない、ではなく、それでも新たものを試したいものが、何かしらある気がします。
家で、今後の生活についての、暗い将来の動画ばかりを眺めていると、買い物する事にためらいを感じてしまいます。
あの、化粧品売り場で、楽しそうに商品を試していた人が、今後も増えてきたらいいなと思ってしまいます。
かつて買った、ランコムのミラクです。爽やか、なのに華やかで好きなオードトワレです。