今の千代子の勤務先は、通り道にデパートがあります。
金曜日の朝、クネオ君に、仕事を終えたら、前から欲しかったオードトワレを買うつもりだと言い、家を出ました。
仕事を終えて、デパートに足を踏み入れた時、ふと、オードトワレよりも、夏に向けて、ガーゼを重ねたタオルケットが買いたいと思いなおしました。
寝具売り場に行くと、丁度バーゲンの初日で、定価の3割引きで売られていました。
クネオ君の分もと思い、2枚買いました。
家に着き、クネオ君にガーゼのタオルケットを見せました。
クネオ君は、「オードトワレを買うつもりじゃなかったの?」と言いながら、少し涙目になっていました。
何だか、今日はいい買い物をしたなあという気持ちになりました。
千代子は、アルバイト、社員、派遣社員、業務委託、契約社員と様々な形態で働きました。
どんな仕事であっても、社会の要請があり成り立っていると信じています。
それでも、自分の仕事の先の喜ぶ人や、所属している組織に貢献している事をイメージするのが、困難と感じる仕事もありました。
千代子が、揚げたての鶏のから揚げをテーブルに置いた時、カレーを置いた時、クネオ君は、本当にうれしそうな顔をします。
それを見ていると、今までの仕事の中で、クネオ君に食事を作る仕事が、一番やりがいがあると感じます。
自分以外の人間のために、生き、働く事の責任と喜びを、この歳になって経験できた事は、千代子の中では、大きな出来事となりました。
ポン酢しょうゆを変えただけで、幸せを感じる。そんな、ささやかな幸せに敏感でありたいと思うのです。