千代子は、仕事を探していた時、面接も何度が受けました。
ふと、学生の頃にアルバイトをして、楽しい思い出のあった、日本料理店にも、電話をかけて、面接を受ける機会を頂きました。
千代子がアルバイトしていた時、若女将だった女性は、大女将となっていました。
保育園に通っていたと言われたお子さんも、今は店長となっていました。
面接で、様々な近況報告などを行い、大女将から、「何の仕事をしたいの?」と尋ねられました。
千代子は、深く考える事もなく、「今、空いている仕事があれば、何でもやりたいです」と答えました。
すると、大女将は、「仕事は、そんなものじゃない。やりたい仕事を言いなさい」と言われました。
新鮮な驚きでした。
千代子にとって、仕事は選ぶものではなく、会社の都合で欠員のあったところで働く、そんなイメージしか持てなかったのです。
それが、他社で仕事をしている人から見れば、やりたい仕事等、ない人と判断されるのです。
ひとつの会社で長く働いた自分の、甘さ、緩さを指摘された気持ちになりました。
結果として、そのお店での採用は見送りとなりました。
しかし、千代子は良い経験をしたと思っています。
志望者が二人来た時、何故この仕事をしたいのかを自分の言葉で話す事が出来る人と、そうでない人、採用されるのは、やはり前者ではないでしょうか。
千代子は、かつて、文章で身を立てたいと、真面目に書き続け、成果を出せなかったという経験をしています。
それ以来、「やりたい仕事より、実際にお金を頂ける仕事」と信じ込んでいました。
会社員を辞め、きちんとお金を頂ける、その上で自分の興味の持てる仕事は何かを、随分、考えました。
その上で、今の仕事を得て、感謝しています。
悩んだ日々は、無駄ではなかったと思います。