千代子は、お香を焚きながら新聞を読んでいる時、ささやかな幸せを感じます。
けれど、お香との出会いは、少し悲しいものでした。
千代子は、友人の他界を彼女の葬儀、告別式を終えた後に知りました。
あの子は、生きる事、学ぶ事に貪欲な子でした。あらたな経験、出会いを常に外に向かって求め続け、そこから自分の糧となる事を学び続けていました。自分の向う所が、アウェイである事をわかっていても、自分にとって価値のある事なら、向かっていく子でした。
千代子は、あの子に同行して知った新たな世界、新たな価値観がありました。
あの子がいなくなった時、千代子は、向こう見ずな行動や、新たな世界に触れたときめきも、過去となり、思い出となってしまう事に、悲しみを感じました。
あの子のご家族とも面識があったので、何か気持ちを伝えたいと、年末に寒中お見舞いにお線香をデパートで買い、送りました。
そのお線香を買った時、販売員の方から勧められるままに、試しに一箱買ったのが、お香との出会いです。
今、千代子は、料理、読書、ブログ、そしてお香と、外出しない、人と出会わない生活の中での楽しみを見つけています。
こんな生活を送る千代子を、あの子は、どんな感想を持つのでしょうか。
聞きたい。でも聞けません。